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毎日、完全醗酵(して生きたい日記)

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「種麹作り」

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 先日は、千葉の酒蔵の寺田本家で「種麹」の作り方を見せて頂きました。「種麹」とは、麹菌の胞子を大量に集めたもので、「麹」(米麹ともいう)を作る時に蒸し米に振りかけます。種麹である麹菌の「胞子」は緑色をしていて、環境が整うと、蒸し米の上で発芽して白っぽい菌糸を伸ばします。通常の麹をさらに長い日数(5〜6日)培養すると、緑色の胞子を付けるそうです。

 今は、ほとんど全ての酒蔵は種麹を専門に作る業者さんから買って、麹を製造していますが、明治時代までは、種麹を自身の蔵で作っていたところが多いそうです。もしくは、「友麹」といって、前回よくできた麹をとっておき、これを次回の種麹として使う方法も多かったそうです。
 
 寺田本家では、「稲麹」といって、稲穂に付く天然の麹菌を使って、種麹を培養しています(写真の稲穂についている黒い粒です)。昔から「稲麹」が出た年は「豊作の兆し」として農民から喜ばれていたそうですが、古い文献には、これがお酒造りや、味噌、醤油にも使われていた事が記されているそうです。「田に於いて青く稲麹」が、「籾はじけて青き玉と相成りて是を取りて麹の種となし」とあるように。

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 昔から、種麹屋さんの「種麹」の作り方は「秘伝」と言われていますが、稲麹が昔は元の原菌だったのではないかという考えもあります。今や、「種麹」は買うものという常識がありますが、これを「稲麹」で作っている蔵は他にないのではないかと思います。
 
 「種麹」を作る時は、通常の麹の製造と違って、玄米をわずかに精米して(あまり精米しない:精米歩合97%くらい)使います(お米が茶色く見えす)。これは、表面のヌカが、長期的に培養する時の、麹菌の栄養源になるからです。(写真は、蒸したお米を冷ましています)
 
 70℃くらいまで冷めたら、「木灰」を混ぜます(普通の麹作りでは灰は入れません)。不思議なことに、ほとんどの微生物は灰のアルカリ性に弱いのですが、麹菌は都合良く生えるそうです。面白いですね!(灰のミネラルも栄養になります)「稲麹」には、麹菌を主体に他の菌も混ざっていますが、灰を混ぜる事によって雑菌は淘汰されて、麹菌だけがほぼ純粋に培養されるそうです。灰を使う方法は、純粋培養の技術が存在しない室町時代にはすでに使われていたと言われています。日本の醗酵文化はすごいです!
 
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 蒸し米が35℃くらいまで冷めたら、稲麹で培養した種麹を振って、よくなじませます。(今回は前もって、培養した稲麹を種として使いました)。稲麹はお米1キロに対して、大体2〜3粒あれば足りるそうです。
 暖かい麹室(こうじむろ)で、布団を被せて保温中。これから、麹菌の発酵熱で温度がどんどん上がって行くので、40℃を超さないように、定期的に「手入れ」(撹拌)をしていきます。普通の麹は二日程で出来上がりますが、緑色の胞子を付かせるにはこれから1週間前後かかります。出来上がりが楽しみです!

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 藤波杜氏。経過表にその都度、経過時間、品温、手入れ作業を記録しています。

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 ここからは、通常の麹作り。甑(こしき)でお米を蒸して、小さい桶に分けて蔵人が肩に担いで運びます。

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 お米を麻布の上で放冷中。手でほぐしながら冷まして行きます。

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 その後、蒸し米は麹室に運ばれて、薄く平に広げられます。木造の麹室は美しいですね。
 
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 杜氏さんが、種麹をまんべんなく散布中。お米はひっくり返されて、混ぜ合わされてから、また種麹が振られます。
 
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 数回繰り返したら、お米を山のように盛り上げて、布団などを被せて保温します。10時間後くらいに、温度が上がって来たら、切り返しをしてお米をまた平に並べます。その後、どんどん温度が上がって行くので、また40℃を超さないように、通常2〜3回手入れをします。
 表面に白っぽい菌糸がちゃんと生えていれば出来上がりです。まわりにふわっと白い菌糸が育った麹は、「糀」(米の花)とも書きます。美しい呼び名ですね。
藤波杜氏、とても貴重な経験をさせて頂き、本当にありがうございました!
by kanzenhakkou | 2009-11-11 23:31 | 醗酵
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