人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

毎日、完全醗酵(して生きたい日記)

kanzenhakk.exblog.jp

酒蔵見学「菩提もと仕込み」

酒蔵見学「菩提もと仕込み」_a0131618_2140811.jpg


 今日は、知り合いと千葉の酒蔵「寺田本家」の見学に行ってきました。
現在の日本酒はほとんど冬に仕込まれていて、普通夏場は作業はやっていないのですが、ここの酒蔵は「菩提もと」(ぼだいもと)という夏でも仕込めるお酒も造っています。
 
「菩提もと」とは、中世(900〜1200年くらい)に奈良のお寺で編み出された、現在の日本酒造りの原型とも言われる方法です。当時は、おいしいお酒の多くはお坊さん達に造られていて(僧坊酒)、お寺はお酒造りの発達に大きな役割を果たしたといわれています(お寺は禁酒のはずなのに)笑。酒造技術書もお寺で書かれたものが多く、昔の寺院はいろいろな技術の「シンクタンク」であったといわれています。

 この「菩提もと」の特徴には「乳酸発酵」があります。日本酒の発酵にはもともと、アルコールをつくる酵母菌の他に、乳酸菌も大きく関わっていました。酵母菌が活躍する前に、乳酸菌がつくった乳酸で雑菌を淘汰させて、そこで乳酸に強い清酒酵母を育てる方法です。これは前にも書いた「生もと」(きもと)づくり(江戸時代に確立して、戦前まで主流だった方法)と同じ原理です。
 しかし、現在の日本酒のほとんどは、この乳酸菌を育てるかわりに「人工乳酸」を加える「速醸」という方法で造っています。

 「生もと」づくりでは、醗酵のスターターになる「モト」を作る段階で、冬の低温下で、蒸し米、麹、水を混ぜて、自然界の乳酸菌が育つのを待ちます。そして、次に酵母菌をそこで増やしますが、昔のように酵母菌が入って来るのを待つ方法と、純粋培養した酵母菌を添加する方法とがあります。生もと造りでは「もと摺り」という、棒でこのモトを摺る、大変な作業が特徴です。戦後、この造り方は一時期廃れていましたが、今またこの造り方を始める蔵が少しづつ増えてきました。寺田本家はほぼ全量、この「生もと」づくりでお酒を作っています。

酒蔵見学「菩提もと仕込み」_a0131618_21402930.jpg


 さて、「菩提もと」のお話に戻りますが、この方法は「生もと」づくりの原型ですが、夏など気温の高い季節でも作れるという特徴があります。
 
 この方法はモトをつくる時に、少量炊いたご飯をさらし袋に入れて、後で仕込みに使う生米を浸けた水にひたします。これを一日一回もんで、3日くらいすると乳酸菌が増えてヨーグルトのような匂いがする水になります。そして、その酸っぱい水をモトの仕込み水に使います。(上の写真はお米を浸けているところです。既に酸っぱい匂いになっています)

 この水を使うと、乳酸菌のつくった乳酸によって雑菌はいなくなり、酵母菌の居心地のいい環境が整えられます。そして、酵母菌がある一定以上のアルコールをつくると、乳酸菌も淘汰されて、最終的には酵母菌の純粋培養のような状態になります。昔の人は、微生物の存在を知らないうちから、経験的に酸っぱくなった(乳酸発酵した)水を使えば、お酒がうまくできることがわかっていたのです!すごいです。

 広島で「生もと」のお酒も作っている「竹鶴酒造」の杜氏さんがいっていました。
お酒のもろみを戦国時代に例えると、酵母が「家康」、乳酸菌が「秀吉」(そしてその前にもろみにいる硝酸還元菌を「信長」)とおっしゃっていました。秀吉(乳酸菌)が天下をとらなければ、家康(酵母菌)の出番もなかったと。なるほど!

 江戸中期には生もと造りが主流になったそうですが、その後も「菩提もと」は暖かい季節などに仕込む際に使われて、明治に入ってからほとんど廃れてしまったようです。とても簡単な方法で、今でも自家製の「どぶろく」を作る人は、この方法をを使う方が多いそうです(そやしモトともいいます)。
 
 アルコールを作る酵母菌は注目されますが、本来の日本酒の造りで大切な役割を果たす乳酸菌が無視されてしまうのは、ちょっと寂しいですね。この「生もと」づくりで作られた濁り酒で「生もとのどぶ」というお酒があります(奈良の久保本家酒造)。このお酒は、飲んだ次の日に「お通じがいい」、という方が何人かいます。これはもしかして、滓引きも濾過もされていなくて、乳酸菌の菌体がたくさん残っているからではないか、と思ってしまいました。
 乳酸菌は、アルコールと火入れ加工によって死んじゃっているはずですが・・・
不思議なことに、乳酸菌の作り出した物質の他に、その死んだ菌体でも整腸効果や免疫活性効果があるといわれています。おもしろいですね!だから、日本のお酒は昔から「百薬の長」といわれていたのではないかなあ、と勝手に思ってしまいました。

酒蔵見学「菩提もと仕込み」_a0131618_21404415.jpg


 そして、最後に頂いたのはこれ!これはお酒ではありませんが、「生もと」づくりを応用して開発した乳酸菌飲料 ー「マイグルト」です。(お米の「まい」と「ヨーグルト」をかけただけ、と言っていました)まだ商品化されていませんが、飲ませて頂きました。
日本酒の生もとづくりで使う乳酸菌が含まれる飲み物です。
 乳製品ではないので、これに含まれる乳酸菌はいわゆる「植物生乳酸菌」です。
甘酸っぱくて、とてもさわやかな味でした!甘みも、お砂糖ではなく麹だけの甘みです。先週、久々に熱を出してから、それ以来あまり調子が優れなかったのですが、これを飲んでからとても元気になりました。お腹も元気です!
やっぱり乳酸菌は偉大ですね!また、素晴らしい経験をさせて頂きました。ありがとうございました。
by kanzenhakkou | 2009-07-06 00:12 | 醗酵
<< 自家製の醗酵肥料 モロヘイヤ >>